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パン屋エメモア開業ストーリー|第5話 

「また来たくなるパン屋には、人のあたたかさが詰まっていた」 

オープンから3ヶ月が経った「エメモア」は、毎朝開店前からお客様が並ばれる「行列のできるパン屋さん」になっていた。 
その理由は、ただ美味しいパンがあるからだけではない。 

お客さまの心をつかむ仕掛けと、日々の姿勢が詰まっていた。 

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「まずは一回来てもらう。その次は、また来てもらえる理由をつくる」 

真貴子さんがそう考えて、プレオープン時から実践していたのが「次回使える10%OFFチケット」の配布だった。 
結果として、約8割の方が再来店してくれたという。 

「チケットがきっかけだったとしても、また来たいと思ってもらえたことが嬉しかったですね」 

そしてそれを支えたのは、パンの味だけではなく「このお店に来るとなんだか気持ちがいい」と思ってもらえる空気づくりだった。 

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子連れのお客さんには「こちらでパンをお取りしますね」と声をかけ、 
ベビーカーの方にはドアを開けに出ていく。 
焼きたての香りをなるべく感じてもらえるように、パンの並べ方や陳列位置も工夫する。 

「私、パンは作れないんです。でも、どうすればこの空間が気持ちよくなるかは、いつも考えています」 

売れて棚が空いてきたらパンを固めて並べ直し、ボリュームが感じられるように。 
窓の指紋、テーブルの小さなごみ、店内の温度――すべてがお客さんの体験になるからこそ、細かいところにも気を配る。 

「自分がお客さんだったらどう感じるかを、ずっと頭の中に置いています」 

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リピート率の高さには、商品構成も一役買っていた。 

「毎回新しいパンを求めるお客さん」と 
「毎回同じパンを買うお客さん」 
その両方に対応するために、定番と季節限定のバランスを考えていた。 

中でも話題になったのが「たけのこパン」 
夫婦で山に入り自分たちで掘ってきた旬のたけのこを使って、3日間限定で販売。 

その限定感とストーリー性が地域のお客さんの間で話題になり、3日間で約260人が来店。全て完売した。 

「ここでしか買えないパンって、やっぱり手に取ってもらいやすい」 
「でも、それって味だけじゃなくて、背景まで伝わることが大事だなって」 

新作のアイデアはサウナや移動中に浮かぶこともあれば、料理本やお菓子作りからの着想もある。 
自分たちの引き出しを少しずつ小出しにしながら、無理なく新しさを提供する。 

「常に新しいことを考えるって、すごくエネルギーが要ること。でもお客さんの、こんなパン初めて!って顔が見られたら、それだけで報われるんです」 

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お客様のなかには、美容室やバッグ屋さん、薬局など、近所の方々も多い。 
「エメモアさん、美味しいよ」 
「このパン、ちょっとプレゼントにしようと思って」 

そんなふうに、自分のお気に入りとして紹介してくれる人が地域のあちこちにいた。 

「うちのパンが、誰かの手から手に渡って広がってるっていうのが、すごく嬉しいんです」 

特別な広告を打たなくても、人の想いで広がっていくパン屋。 
それは決して偶然ではなく、日々の積み重ねの結果だった。 

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このお店に込めた名前――「エメモア」。 

フランス語の響きのようでもあるこの言葉には、実はとても個人的で心からの願いが込められている。 

それは「私を愛する」という想い。 

子育てに悩んだとき、心が折れそうになったとき、自分の価値がわからなくなったとき。 

 
どこかでずっと自分自身に問いかけていた言葉だった。 

「こんな私でも、誰かに愛されていいのかな」 
「私がつくるものを、誰かが愛してくれるかな」 

そんな想いを抱えていたからこそ、自分自身を、そして誰かを大切にできる場所をつくりたいと思った。 

「私を愛して」――その願いが、「人を愛せる場所」に変わっていったとき、このお店が生まれた。 

「エメモア」には、そんな等身大の祈りが込められている。 

お店はまだスタートして数ヶ月。 
けれどその土台には、管理栄養士としての経験、子育てに向き合った時間、たくさんのモヤモヤ、勇気を出して踏み出した一歩。すべてが詰まっている。 

「失敗してもいい。でも、挑戦しなかったという後悔だけはしたくない」 
その想いが、エメモアをここまで導いてきた。 

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最後に、これから起業を目指す人に向けて、真貴子さんはこう語る。 

「不安はあります。お金のこと、生活のこと、子どものこと…全部不安です。けど、行動したら誰かが助けてくれるんですよね」 

「商工会も、税理士さんも、公務店さんも、金融機関の担当さんも――自分で壁を作らなければちゃんと味方になってくれる人がいる」 

「だから、自分一人で抱えずに頼っていいと思います。そして、自分のこうしたいを大事にしていいんです」 

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エメモアは、パン屋である以上に、「人の想いが交差する場所」だった。 
これからも、きっと誰かの記憶に残る場所であり続けていく。 

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パン屋エメモア開業ストーリー|第4話 

「夢がかたちになるとき、試される覚悟と想像力」

土曜塾の創業計画書も完成し、融資も無事に決まった。いよいよかたちになる段階まできた、真貴子さんとご主人が目指す「パン屋エメモア」の夢。 

けれど、設備選び・開業準備……想像以上の現実が二人を待ち構えていた。 

内装工事では、ノトスクリエイティブホームのチームが細かく寄り添ってくれた。 

「この棚、どんな高さなら取りやすいですか?」「ここに手を伸ばす動作って、1日に何回くらいありますか?」 

そんな風に、こちらの日常の動きに寄り添ってくれる提案に何度も救われた。 

「素人の私たちが気づかない視点を、自然に織り交ぜてくれる。押しつけじゃない感じが本当にありがたかったです」 

グイグイと決めつける業者さんではなく、真剣に私たちのやりたい店に向き合ってくれる人たちと出会えたことが、開業準備を安心して進められた大きな理由だった。 

ご主人はパン職人としての経験があったが、いざ「自分たちの店」となると勝手が違う。 

何を買うべきか。何が足りないか。何があとから必要になるのか。 
すべてを想像で補いながら、設備や道具を一つずつそろえていった。 

そんな中、最も苦労したのが「備品の見落とし」だった。 

「天板が足りない。トングとトレーが少ない。冷却用のラックが間に合わない…」 
オープン後に気づいた穴がたくさんあった。 

「やってみなきゃわからないことばっかりで、毎日が気づきの連続でした」 

しかも、予算にはある程度の限りがある。 
冷蔵庫や発酵機などの大型機材は、中古も活用しながらコストを抑える工夫をした。 

「見た目ではなく、機能と状態を重視。新品ではなくても、きちんと使用できれば良い」 
自分たちの等身大のスタートを大切にした。 

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一方で、オープンに向けて気になっていたのが「集客」のこと。 

「お客さん、ほんまに来てくれるかな…」 
「オープン当日、誰も来なかったらどうしよう」 

そんな不安もありながら、真貴子さんはあえて地元のグルメサイトからの取材依頼を一度断った。 

「うちは来てくれると信じている。だから、まずは静かに始めたい」 

でももちろん、たくさんの人に来てほしいという気持ちもあった。 

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迎えたプレオープンの日。 

店先には、想像以上にたくさんの人が列を作っていた。 
一番乗りのお客様は小学校時代の同級生。近くに住んでいて、オープンを楽しみにしてくれていたという。 

「奈良に戻ってきてよかったなって本当に思いました」 
「一人じゃないって改めて感じられた日でした」 

お店の中はバタバタ。 
パンは飛ぶように売れ、レジは大行列。 
気づけば「小銭が足りない!」というハプニングまで発生。 

そんなとき、駆けつけてくれた信用金庫の担当の方が近くまで両替に走ってくれたという。 

「こんなにも自分たちのために動いてくれる人がいるなんて…」 
「本当にありがたいと思ったし、応援してもらえていると実感しました」 

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グランドオープン後の3日間は、連日大盛況。 
想像の倍以上の来客があり、仕込みが追いつかないほどだった。 

でも2日目はあいにくの大雨。 
一気に来客が減り、不安もよみがえる。 

「調子に乗ったらダメだなと思いましたね」 
「でも、これも全部現実。一喜一憂せずにやるしかないって」 

開業前、想定していた来客数は「1日30〜60人」。 
それが今では、平均して80〜100人。多い日にはそれ以上になる。 

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その理由は何か? と聞くと、真貴子さんは「SNSの力と地域のつながり」と答える。 

Instagramを毎日更新し、ストーリーズで新作情報をこまめに発信。 
土曜塾で学んだ継続力を活かして、3ヶ月以上コツコツと投稿を続けている。 

「正直、SNSで一気に広がることもあれば、誰かの一言でじわっと広がることもある」 
「でも、やっぱり届けようって思って発信することが大事なんですよね」 

さらに、近隣のお店の方々が口コミで応援してくれたり、お花を贈ってくれたり。 
地域の方々がうちのパン屋さんとして、すこしずつ存在を受け入れてくれていた。 

「エメモアって、私を愛してという意味なんです」 
「エメモアのパンを召し上がっていただくことでホッと一息ついてもらって、それがご自身を大切にするきっかけになれば嬉しいなと思っています」 

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オープンまでの道のりは楽ではなかった。 
だけど一歩ずつ手を動かし、人とつながり、夢を現実に変えてきた。 

次回、最終話では「リピート率8割」「お客さんを飽きさせない工夫」 
そして選ばれ続けるお店づくりの秘訣に迫ります。 

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パン屋エメモア開業ストーリー|第3話 

「お金の不安と向き合いながら、頼ることで開いた道」 

「夢はある、でもお金がない。生活もあるし子どもも小さい。大丈夫かな…」 

開業に向けて動き出した真貴子さんが最初にぶつかった壁、それは資金の不安だった。 
開業資金、改装費、機材費、生活費――全部合わせたら、一体いくらかかるのか?  

何をどこに聞けばいいのかすらわからない。 

けれど、彼女は諦めなかった。 
「知らないなら知ればいい。ひとりで無理なら人の力を借りればいい」 
そう心を決めて、行動を積み重ねていった。 

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奈良での開業を決めてすぐ、真貴子さんは「土曜塾」という起業支援講座に申し込んだ。 
奈良県よろず支援拠点が主催する全6回の講座で、Zoomでの個別指導・宿題の提出・フィードバックを通じて事業計画書を作成していく。 

「正直、最初はすごく不安でした。Zoomでいきなり個別面談って緊張するじゃないですか」 
「でも講師の方がそのままで大丈夫って言ってくれて。話すたびに、自分の頭の中が整理されていくのがわかったんです」 

この土曜塾には、経営や資金、SNSや補助金の専門家が勢揃いしており、希望すれば個別に相談にも乗ってくれる。 
「創業の想い」「開業後の目標」「資金の流れ」「誰に何を届けるのか」 
すべてを文章にし、数値にし、現実の計画として仕上げていく。 

その過程で、彼女の中にあった漠然とした夢が「事業」としての輪郭を持ち始めていった。 

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並行して進めていたのが、お金の整理。 
自宅の通帳をすべて机に並べ、初めてきちんと家計簿をつけた。 

「それまでは、なんとなくお金が出ていって、なんとなくやりくりしていたんですよね。だけど今回はそうもいかない」 

レシートを一つずつ見返して、無駄を削り、家にある不用品はフリマアプリなどで売った。 
本当に小さな額でも「少しでも貯金を増やしたい」という気持ちが背中を押していた。 

「開業に必要な金額は、本当に未知でした。ネットや本には800万〜1000万円くらいって書いてあったけど、実際どうなるのかは誰も教えてくれない」 

だからこそ、見積もりをひとつひとつ集めた。 
設備屋さんに聞き、機材屋さんに聞き、細かい備品もExcelでひたすらリスト化していく。 

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そんな中で出会ったのが今の税理士さんだ。 
夫の尊敬する先輩からの紹介だった。 

「どうせお前、訳わかってへんねんから税理士さんに任せておけって言われたんです(笑)」 
でもその一言が、実際に大きな助けとなった。 

税理士さんは創業計画書の内容をブラッシュアップし、融資先の日本政策金融公庫や信用金庫とのやりとりにも同席してくれた。 
「この計画ならいける」 
「ここは数字の整合性がとれていないから直そう」 

真貴子さんにとってはまさに伴走者。 
自分ひとりでは乗り越えられない局面を、何度も一緒に越えてくれた。 

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最終的に資金調達は、日本政策金融公庫と奈良信用金庫のダブル融資。 
信用保証協会の保証も受け、開業に必要な金額に届いた。 

「自己資金の3倍まで借りられるっていう話、聞いたことありませんか?」 
「実際はあくまで目安なんです。最終的には計画の説得力と、自分たちがどう動いているかを見られているんだなって、すごく感じました」 

奈良信用金庫の担当者は、何度も見積もりや収支表を一緒に確認してくれたという。 
「お金を借りるって怖いって思っていました。でも実際は全然違う。味方になってくれる人がちゃんといたんです」 

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ちなみに、最も不安だった生活資金もしっかり計画に入れていた。 
開業後すぐには売上が安定しない可能性もある。 
仕入れ、光熱費、自分たちの生活費――それらを運転資金として数ヶ月分確保することで、資金ショートのリスクを下げた。 

「運転資金なんて言葉、最初は知らなかったんですよ。でも、それを入れないと開業したのに仕入れができないってことにもなる」 

土曜塾や税理士さんとの会話で一つひとつ勉強したことが、着実に自分たちのお店の基盤になっていった。 

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そして迎えた融資の面談。 
日本政策金融公庫、奈良信用金庫、信用保証協会――複数の面接が続く中で「なぜこのお店をやりたいのか」「どうやって返済するのか」「事業として本当に成り立つのか」を何度も問われた。 

でも、真貴子さんの言葉はどこまでもまっすぐだった。 

「この場所に、安心して来られるパン屋をつくりたい」 
「おいしさと健康、その両方を届けたい」 
「お金の不安も、子育ても、全部こなしながら、でも夢をあきらめたくないんです」 

面接官の表情は最後にはやわらかくなっていたという。 

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こうして融資も決まり、開業のゴーサインが出た。 

 
でもここで話は終わらない。 

融資も整い、いよいよ内装の詳しい打合せへと動き出す段階になった。今までに問い合わせをした中で「これはこうですよ」「このやり方が正しいです」とぐいぐいリードしてくるタイプの工務店に対して、 
「ノトスクリエイティブホームさんは、最初からこちらの気持ちに寄り添ってくれて、どうしたいかをじっくり聞いてくれる姿勢が印象的でした。」 

「こちらの気持ちを置き去りにしないでいてくれました。それが本当にありがたかったんです」 

ご主人とも相談し「どこでやるか以上に誰とやるかが大事だよね」と意見が一致し、ノトスさんに工事をお願いすることを決めた。 

初めての店舗づくりで右も左も分からない中、「この人たちになら素直に相談できそう」という安心感が、大きな決め手になったという。 

次回は、開業に向けた内装・準備・お店ができていく過程に追っていきます。 

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背中を押せなかったあの時の悔しさが、今の僕をつくっている

もう4〜5年ほど前のことになります。
大和郡山で開催されていた
「リノベスクール」という取り組みに参加しました。

3日間のプログラムで、参加者は5人ずつ位のチームに分かれて、
空き物件をどう活用するかを真剣に考えるという内容。
僕のチームにも、すごく前向きに取り組む方がいて、
「この物件、本気で自分で借りてお店をやってみようかな」って、
言い始めたんです。

その言葉に、僕は正直ドキッとしました。
「本気でやりたい人」が目の前にいた。
でも…その時の僕には、何もできなかったんです。

アイデアを実現するためには、物件の知識も、
資金の段取りも、内装の整備も必要になる。
でも、当時の僕には、そのどれもが中途半端で、
彼女の「やってみたい」という気持ちに、
何ひとつ応えることができなかったんです。

手を差し伸べられなかった自分が、情けなかった。
「せっかく誰かが前に進もうとしてるのに、
なんでサポートできないんやろ」って、
心から思いました。

それが、僕の中でずっと残っていた悔しさです。

それから僕は、「お店づくり」の仕事に、
より真剣に取り組むようになりました。

図面の描き方、補助金のこと、資金計画、事業計画、施工のこと、
マーケティングのこと…
全部が「お店をやりたい人の背中を押すため」に
必要なことやと気づいて、学び続けてきました。

今ではありがたいことに、
たくさんの方の開業や改装をお手伝いさせていただけるようになりました。
多分、それは全部、あのときの無力さがあったから。

あの時、目の前にいた彼女の「やりたい」を
支えられなかった自分がいたからこそ、
今は「誰かのはじまりに寄り添う存在になりたい」と
強く思っています。

もし、あのときの彼女がまた挑戦しようとしてくれたら、
今度は絶対に「一緒にやりましょう」って言える自分でいたい。

そして、今目の前にいる「やってみたい人」たちに、
「やれますよ」って、自信を持って伝えられる存在でありたい。

挑戦したい人の“最初の伴走者”になること。
それが今の僕のモチベーションです。

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